雫に溺れて甘く香る
ゴツンとどこかにぶつかったような痛そうな音と、バシャリとした水音が重なった。

ポタポタと髪を伝うのは、匂いからするとウィスキーかな?

目を真ん丸に見開いた彼女が、グラスを突き出した体勢のままで固まっている。

自分で仕掛けておきながら、驚くのはどうなんだか……。

滴り落ちる水滴が、コートの隙間からブラウスを濡らしていった。


「冷た……っ」

「何やってんだ馬鹿!」

髪をかき上げると、マフラーを外してそれでいきなり私の髪をわしゃわしゃ拭きにかかる続木さん。

「え。そんなもので拭かれても困る。うわ、お酒くさ……っ」

「当たり前だろうが! コート脱げコート! シノ!」

篠原さんがカウンターから出てきて、暖かいおしぼりを渡してくれる。

それから騒ぎに気がついた中野さんが厨房野から顔を出し、戻ってきた時には白いタオルを投げてくれた。

「ありがとう」

「ありがとうじゃない。何やってんだお前は!」

続木さんに怒られて肩を竦める。

「だって、続木さん風邪ひきかけてるみたいだし、これって私が受けるべきじゃないかと思って」

「何でお前が受けるべきなんだよ! 俺がハッキリしなかったから悪いんだろうが」

「でも、私が誘わなかったら続木さんだって誘いに乗らなかったでしょ? それなら、彼女の怒りの対象って私じゃないの?」

「遅かれ早かれ別れてたんだから、グズグスしてた俺が悪いんだって」

イライラマックスでコートを引き剥がされながら首を傾げる。

「はい? だから、それだってそもそも私が……」

「お前に一目惚れしたのは俺の方が先だ」

言われた言葉に目を見開いたけど、白いタオルに遮られた。
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