雫に溺れて甘く香る
「あいつも……前の店の常連だったんだ。つきあってくれって言われて付き合った」

ポツリポツリと話始めた続木さんに頷いて先を促す。

「でもなぁ……恋人って言うよりは我が儘な妹みたいに感じていて……そんなのに手を出すのは、違うような気がしてた」

「続木さん男なのに?」

「お前は兄貴みたいな奴に抱かれたいか?」

言われて考えてみる。私からするとお兄ちゃんみたいな人……って言うと村田先輩?

村田先輩に私が? ないないない。絶対にない。

心の中で否定していた筈なのに、続木さんには伝わったようだ。

「そうだろう? だから……1年経つ頃にはちょっと限界感じてた。あいつの我が儘も増えてきてたし、叶えてやれないことも増えてきたし、喧嘩も増えた」


……それは、何となくわかるかも。


彼女も続木さんの真意が見えなかったんじゃないかな。

そういう時、愛されているバロメーターとして“試して”しまうのが女だと思う。

我が儘も言ってみる。叶えてくれたら好かれていると感じれる。

だけど、叶えられない程に我が儘が増長してしまったって……続木さんて、ある程度は彼女の言い分を叶えてあげていたということ?

「そんな時かな……お前がずぶ濡れになって店の前に立っていたのは」

思い出すように呟く続木さんを見て、瞬きをした。

……何だか、嬉しそう?
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