雫に溺れて甘く香る
「正直言って、しのっちは何が楽しいのか、解んないんだよね~」

……と、勝手に取り出した缶ビールを渡してくれながら、中野さんがやたら楽しそうなんだけど。

「……お前、ソレを城島さんの前で言ったら、シノにシバかれるぞ?」

「そう? だってさ、シノのちょっかいのかけ方って明らかじゃん」

何かが明らかなんだろうな。私はわかんないけど。

「暇な日には呼び出すっしょ? 今日だって呼び出したっしょ?」

指折り数え始めた中野さんに、続木さんが曖昧な表情で私の方に向かってくる。

「……まぁ」

「それにね、実はジョウさんスペシャルカクテルがあるんだよ?」

その言葉に、二人で中野さんを見た。

「だからジョウさん来たら解る。わざわざ私物のリキュール取りにくるから」

……篠原さん。クールな顔で何だか可愛い。


「素直じゃねぇな」

人の事がいえるわけ?

ポツリと呟いた彼に、ちらっと視線を向けるとムッとされた。

「おまえに隠し事はないぞ」

「うん」

知ってる。隠し事はなくても、言い忘れたり、言葉が足りないことも理解してる。

「抱きたい時は抱く」

「だ……っ!?」

何をいきなりいいだすの?


「あー。俺、おつまみ作ってくる」

そそくさとキッチンに逃げた中野さんを見て、それから座ってビールを飲む続木さんを見る。

「……何だ」

……そんな言葉は、人前で言うものじゃないと思うんだ。

「言え」

「……抱くとか抱かないとか、他人がいる前では言わないでよ」

「……解った」

本当に?

疑惑の目を向けると、続木さんは不機嫌になった。
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