雫に溺れて甘く香る
「禁煙中」

「禁煙……」

そうなんだ。なんで? ……と、反射的にそう聞きそうになって口を閉じる。

要するには『吸いたい』とか言いながら、禁煙する理由は『女はタバコの煙を嫌う』からか。

えっらいねー? 彼女のために禁煙中ですか。そうですかそうですか。


なんかムカつくんですけど。


それでもからかうような笑顔を浮かべるなんて、芸当は簡単なモノで……。

私って営業職が転職だなー。なんて考えながら続木さんを見上げた。

「禁煙パイプでも吸ってなよ」

「嫌だ」

短く一刀両断に断られて吹き出した。

「禁煙パイプは嫌なんだ?」

「あんなの吸ってるやつ見たことない」

いや、確かに人前で堂々と禁煙パイプ吸ってる人は見たことはないけどね。

でも、それって影で吸ってるって事でしょうが。

煙草の代わりに、煙草みたいに吸うのが一般的じゃないのかな?

そのイライラしている無表情に、こっちがイライラするんですけどー。

嫌ならやめなきゃいいのに。誰かのために何かを我慢するとか、ちょっと嫌だし。


……って、私が言えるような台詞でもないんだけど。

カクテルに口をつけて考えていたら、続木さんがいきなり手を伸ばしてきた。

そのままサラッと手の甲を使って私の髪をよけたからギョッとする。
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