雫に溺れて甘く香る
「あのな……」

言いかけた時、玄関の方でドアが開いた音がして、それから何故か騒ぎ立てながら篠原さんたちが帰ってきた。

途中、帰ってしまった彼女を、篠原さんは迎えにいっていたみたい……だけど。


その二人の姿に沈黙が落ちる。


パーカーの彼女は、頭に雪を乗せてるし、篠原さんは雪の他に泥が……。


「何して来たんだ、おまえら……」

続木さんの意見はもっともだと思う。


「こいつが暴れるから、雪道でこけた」

篠原さんは彼女を指差し、彼女は非難するように眉を吊り上げる。

「な……っ! 担ぎ上げる篠原さんが悪い!」

「担ぎ上げられたの?」

思わず口を挟んでしまうと、彼女は真剣な表情で私を振り向いた。

「られたんです! 5分で降りてこいとか言うし」

すごい剣幕で篠原さんを指差し、彼女はまた彼を睨む。

「言ってねぇ。メールだろ」

「だから一緒! 言ったのと一緒!」

「くだらねぇコトにこだわるな」

「どっちが……!」

……口の悪い篠原さんって、初めて見た。


とにかく二人が濡れて寒そうなのは事実なので、篠原さんは奥の部屋に服を探しに行き、城島さんはシャワーを借りに行った。


「……楽しそうだね」

「いつもだ」

ポツリと漏れた呟きに返事が返ってきて、横目で続木さんを見ると楽しそうに目の奥で笑い合う。

「いつもなの?」

「シノがいつも気味悪いくらいニヤついてるぞ」

あのね……それが友達の言葉なの?
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