雫に溺れて甘く香る
「……いいか。じゃ、お先」

ポツリと呟かれて、続木さんはバスルームに消える。

ちょっと待って~! いいのか悪いのか、その微妙なくくりはなんなの!

しかも、さっきからなんだか諦められてない?

それってなんなのよ!

でも、今更バスルームのドアを開けるわけにもいかないし……。

とりあえずスーツ脱いじゃうかな。着の身着のままの雑魚寝でシワシワ。
だけど、どうせシャワー浴びるから着替えるならその後でもいいかな。


……お茶でも飲もう。


そう思って冷蔵庫を開けて、中に入っていたモノに目を丸くした。

冷蔵庫の下の段に、サーモンのマリネらしきとスモークチキンの真空パックが見える。
それから大瓶では無いけど……取り出してみると、読める銘柄は間違いなくシャンパン。
二段目には冷製パスタに、海老とアボカドが乗った……サラダと、チーズの盛り合わせパック?

そして、一番上に乗っている白い箱は、もしかしてケーキだとか言う?

……何これ。

私は買った記憶はないから、彼が用意したの?

うちでクリスマスでもするつもりだった……とか?

考え込んでいたら、冷蔵庫の開けっぱなし防止ブザーが鳴って、同時にバスルームのドアが開いた。

振り返ると、タオルを巻いただけの続木さんと目が合って、体温が一気に上昇する。

「ちょ……着替えくらい持ってかなかったの?」

実は、裸の続木さんを平常時に見るのにはまだ慣れてない。

いつもは、彼もわかってるからせめて下に履くものくらいは持って行ってくれるのに……。

「忘れてた。……そんなもん見つけなくていい」

持っていたままのシャンパンに続木さんは呟いて、着替えを取りに行った。

……うわぁ。一応、ちゃんと考えてくれてたんだ。
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