雫に溺れて甘く香る
「大丈夫か?」

冷静な声が降ってきて、顔を上げると、声とは裏腹にどこか不安そうな視線とぶつかった。

「……い、意味を聞いてもいい?」

「意味なんてわかりきってるだろう。やっぱり言葉が必要か?」

「そ、それは、必要なんじゃないかなぁ?」


どこか上擦った声なのは自分でもわかる。


こんな時に冷静になれって言うのはどうかしていると思う。

続木さんは私の目の前にしゃがみ込み、バラを私の膝に置いた。


「まぁ、片膝つけとか、なんかいろいろ言われたんだけどな」

何となく文句を言うようにブツブツ言いながら、私の左手を持つと指輪をその薬指にはめる。


「結婚しよう。さっさと俺のものになれ」

「命令するのはどうだろう?」

「……お前、今、なにも考えてないで言ってんだろ」

「いや……だって、何を考えればいいの? 私は私のモノだし、何をあげればいいわけ?」

「とりあえず“はい”っていう返事だよな」

どこかふてぶてしいその言葉に思わず吹き出したけど、視界はみるみる歪んでいく。


「……うわ」

「うわって言わないで!」

「だから、ダメだろ。俺はお前の泣き顔に弱いんだから」

ひょいっと持ち上げられると、縦抱きにされたままリビングに連れていかれる。

ソファに座り、その膝の上に座らせてもらうと、まじまじと彼の顔を見た。
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