雫に溺れて甘く香る
***



「ところで、なんでいきなりスーツ着ていたの?」

彼に抱きしめられたまま、襲ってくる気だるさにうつらうつらしていたけど、どうしても気になることを聞いてみた。

理解できないことも多いけど、続木さんには続木さんなりの行動規準があるはすだ。


今はそのスーツはクローゼットの中に辛うじて吊るされているけど。
でも、言わなかったらぽい投げしていただろうなぁ。

考えていたら、彼がクスッと笑った気がした。


「さすがに、普段着でプロポーズしたら……怒るかと思った」

……うん?

まぁ、そうかも。さすがの私でもパーカーにスウェットパンツでプロポーズされたら……怒っただろうねぇ。


「それから、俺がちゃんとした格好でプロポーズしているのに、お前が普段着のままなら、それも怒ると思った」

「ああ……」

それで“お洒落しておけ”だったのか。

確かにスーツ着た続木さんにプロポーズされた私が、トレーナーとジャージ姿だったら、すこし間抜けすぎて泣けていたかもしれない。


「後は……場所に怒るかと思ったから、一応、ホテルでも行こうかと予約はしていた」

「へ?」

一瞬、目が覚めた。ホテルの予約?

「24日は無理だとしても、25日の空きは案外簡単に確保できるんだが……さすがにそれはキャンセルしてもいいか?」

……ホテルの予約かぁ。ちょっぴりそそられるものもあるけど。
< 171 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop