雫に溺れて甘く香る
まぁ敵って言っても、普通の日常に生死を分かつような闘いがあるはずもなく。

いや、生活する為には働かなければならなくて……。

一緒にバーをやっているのだから、ある意味では“生死を”分かち合っているのかも知れないけれども。


煙草を取り出した彼に灰皿を渡し、畳み終わった洗濯物を片付けた。


「クリーニングは、18時以降に出来上がるって言われたぞ」

「うん」

紫煙がゆっくりと上がっていく。

少し甘い煙草の煙がゆらゆらと漂う、この空気は嫌いじゃないなぁ。


そう思って彼を見ると……どうしてガン見されているんだろう。


「えーと……お昼、何か食べたいものある?」

「別に何でもいいが、このあとの予定は?」

「予定?」

「18時にはクリーニングに出したもの取りに行くとして、お前の予定は?」


あるはずないじゃないの。あれば前もって話しているし。

いきなりどうしたんだろう。人の予定をワザワザ聞いてくるなんて。

だいたい用事があったら“昼食なんにする?”なんて聞かないし。

いやー……なんか……。


「おい」

「はい?」

「いい加減、言葉使って意思表示しろや」

不機嫌そうに灰皿に煙草を押し付けて、続木さんは足を組んだ。


「何だ」

「本当に生活してるんだな……って」

前々から半同棲だったわけだし、変わらないと言えば変わらないんだけど。

言わば今は婚約期間なわけで。

本当に一緒に生活してるって、じわじわ実感してるっていうか。
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