雫に溺れて甘く香る
「あ。ごめんなさ……」

「お姉さん、ひとり?」

見ると、ジーパンに灰色のパーカーを着たお兄ちゃんも一人。

……雨が降ってるわけでもないのに、どうしてパーカーの帽子を被っているのかな?

ラメラメドクロマークのプリントパーカーって、どこで売ってんのそれ。

そこから見える髪は、間違いなく金色だよね?

しかもソバカスいっぱいの顔に鼻ピアス。弧を描く唇にもリングタイプのボディピアス。


……あまり、お近づきにならない方がいいような気がする。


「お姉さんは一人じゃありません。ぶつかってごめんなさい。失礼します」

コンビニ行きは中止しよう。
行くためには暗い道を歩かなきゃいけないし。それは何となく怖い。

「えー? お姉さん、どう見ても一人じゃん。酔ってるの? 俺が送ってあげようか?」

どこか笑いを含む猫撫で声と、肩にかかってきた手に寒気がする。

どうしよう。そう思ったとき……。

「人の連れになんか用か、坊主」

低い声に振り返った。

そこには無表情だけど不機嫌そうな続木さんがいて……私と、私の肩に乗った手と、それから手の持ち主を眺めて目を細める。

「輪島さんとこの坊主だよな?」

「え? あんた誰?」

ドクロパーカーの彼が物凄い形相で続木さんを睨んでいるけど、彼の無表情は変わらない。

「誰でもいいだろう。予備校生が何やってんだ? 未成年がほっつき歩く時間じゃねえだろうが?」

「……っるせーな」

本当に五月蝿そうにするドクロパーカーくんに、続木さんは目を細めたまま一言だけ呟いた。


「……あ?」


……とだけ。
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