雫に溺れて甘く香る
低い低いその声は地の底から響いてきたような低音で、ついでとばかりに続木さんの纏う雰囲気が、イライラから燃えるような怒りに変わったような気がした。

「もういっぺん言ってみろや? 誰に向かって口きいてんだクソガキ」

いや、これはもう臨戦態勢だよね?

「つ、続木さ……?」

「う……あ、ご、ごめんなさい!」

ドクロパーカーくんはパッと私から手を離すと、超特急で走りだし、そしてすぐそこの角を曲がると見えなくなる。


……この状態で逃げないでー!

私をこんな怖い雰囲気の人と二人きりにしないでー!

思わず見ず知らずのドクロパーカーくんに助けを求めそうになったけど、そんな私を見て、続木さんは大きな溜め息をついた。

「おとなしく送らせろ」

声の調子は普段通りに戻ったけど、そう言われてコクコク頷く。

酔いもすっかり醒めたわ~。続木さんて、あんな風にもなれるんだねー。

意味もなくパタパタと自分を扇いでいたら、続木さんは微かに首を傾げる。

「遠いか?」

「そうでもない。歩いて10分くらい」

気を取り直して歩き始めたら、続木さんは隣に並んだ。

「少し頭使え。いつもより遅い時間に酔っぱらってきたくせに」

言われた事にキョトンとして、それからまわりがいつもより暗い事に気がついた。

……そっか。この時間帯だと、まわりのお店が閉まっちゃうんだ。

残業すると駅からタクシー使っちゃうし、全然気がつかなかったなぁ。
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