雫に溺れて甘く香る
結果として子供みたいな事をしちゃったわけなんだけど、心配してくれたのかな……って思うと、素直に喜んでおこう。

「ごめんね。ありがとう」

「いや。別に……」


それきり黙って歩き続ける。


……本当に無口だよね、続木さんって。

まぁ、いいか。私には関係ない、関係ない。

頭の中で言い聞かせながら、見覚えのある交差点で立ち止まった。

信号は切り替わったばかりのようで、停まっていた車が一斉に動き出す。

その様子を見てから、続木さんを振り仰いだ。

「ありがとう。もういいよ。すぐそこだし」

「店出て、5分以内に変なのに取っ捕まった奴の言い分か?」

彼は信号を見ながら淡々と呟く。


それはそうだけど。

肩を竦め、微かに苦笑を返した。

「うちはオートロックだし。24時間管理人もないるし、この信号長いし」

「……そうか」

「金曜の夜って忙しいんでしょ?」

「まぁまぁだな。世の中給料日前って感じだろ?」

ああ。そうだね。世の中、給料日前って感じだ。

「そう言えば、お店……移転するんだって?」

続木さんは信号をから視線を移し、一瞬だけ私を見下ろす。

「まだ。移転先に決めた店が退去してないから、もう少ししてからだろう」

ああ、もう移転する場所は決まっているんだ。

「ふうん。そうなんだ。遠くなるのかな?」

「ここらからなら、少しな。でも、メイン通りに建つビルだから、今より明るい道を帰れるぞ? 今の立地も悪くは無いが、元々が古い商店街の延長で、まわりの店が閉まるのが早い」

そうなんだ。でも、そうかもな。19時過ぎるとあの通りの半分くらいはシャッター閉まってるし。

今日なんて、ほとんど閉まってたもんね。
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