雫に溺れて甘く香る
「な、なんかごめん……」

顔を赤らめて、ペコリと頭を下げると、篠原さんが片手を振った。

「大丈夫ですよ。今日は暇だったので……」

篠原さんが続木さんの肩をポンと叩くから、次に何を言われるかわかって慌てる。

「篠原さ……」

「責任もって、送ってやれよ?」

瞬時に聞こえたのは、続木さんの小さな舌打ちだ。

……あー。面倒くさいですよねー。ごめんねー。この間も送ってくれたばかりなのにさ。

ちょっとイラっとしたけど、篠原さんは続けて私を振り向いた。

「レジを閉めますので、お会計してもいいですか?」

「あ。はい。お願いします」

それから代金をしっかり支払うと、続木さんがカウンターから出てくる。

「あと頼むな」

篠原さんに軽くそう言って、彼は私の腕を持って立ち上がらせてくれた。

え。舌打ちしたくせに、送ってくれちゃうわけ?

そんな面倒くさい女に、これ以上なりたくないんだけど!

「だ、大丈夫だから!」

手を離そうとして身動ぎしたら、バランスが崩れそうになって続木さんの腕に支えられる。

「いいから。あんたは暴れるな。迷惑だ」

「あ、暴れてなんてないでしょ!?」

「……帰るぞ」

溜め息混じりに手を引かれて、焦って篠原さんを見たけど、彼は無情にも手を振って見送ってくれちゃうし。

この状況。どうしよう……?
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