雫に溺れて甘く香る
とりあえず、引かれるままに無言で歩く。

背の高い続木さんを眺めていたら、癖のない髪が風にふわりと乱された。

そしてスタスタと自分の歩幅で歩くから、ちょっとだけ小走りでついて行き……それをチラッと、彼は見つけて歩調を緩めてくれる。


そんなことに気がついちゃった。


そっか……続木さんて、無言で優しいところがあるのか。ちゃんと気を使える人でもあるんだね。

「……あんた。そんなに弱くて大丈夫か?」

「何が?」

「いつも独りだし……」

そう言いかけた時、聞き慣れない音に立ち止まる。

プルプルとシンプルな着信音。

二人で音の出所を見ると、それは間違いなく続木さんのお尻のポケットからだ。


……こんな夜中に?

続木さんはスマホを取りだし、それを見てから私を見る。

「ちょっと悪い」

「ああ、うん。私は一人でも平気だから……」

呟くようにして、繋がれた手を離そうとしたら……ぎゅっと握りしめられて瞬きをした。


「なんだ?」

……え。電話出てるし。これって私が聞いちゃってもいい系なのでしょうか?

困って顔を上げると、続木さんの視線が嗜めるように細められる。

「ああ……終わったが」

……相手は誰なんだろう。

私がいても大丈夫な相手って、篠原さん? でも、篠原さんに“終わった”っておかしいよね?

「今から? 無理に決まってるだろ。だいたい、友達と一緒に行ってるんだろうが」

……これは、絶対に篠原さんじゃないよね?
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