雫に溺れて甘く香る
相手の高い声が漏れ聞こえた。何かきゃんきゃん叫んでいる。

続木さんは無言のまま、しばらくそれに耳を傾けて……。


めっちゃ怒られてない?


そして、溜め息をついたかと思ったら、何か言いかけ……パクンと口を閉じるとスマホを見る。

今度は盛大に溜め息をついた。


「言いたいだけ言って切りやがった」

あ。そう。喧嘩ですか?

……今の、間違いなく彼女だよね?

スマホをしまっている続木さんを見上げ、そして、つい意地悪く笑ってしまう。

「行かなくていいの?」

「いい。足がねぇし」

つまり、足があれば行っているってこと?

彼女が今どこにいるかは知らないけど、こんな夜中に呼びつけるってどういうことなんだろう。

ああ、でも、続木さんは仕事だったわけだから、ある意味で妥当な時間なのかな。

……こんなことで喜んじゃいけないんだろうけど。続木さんが“ここにいてくれている”事が、とても嬉しいと感じる私はダメな人間だ。

小さく自嘲してから、肩を竦めた。

「続木さん。飲みに行こうか?」

「は? あんた酔っぱらいだろ」

かなりさめたよ。

「いいじゃん。もう一杯くらいは大丈夫だし。せっかく明日休みなんだから、ちょっと付き合ってよ」

続木さんは一瞬考えるような素振りで空を見上げ、それから小さく頷いた。

「一杯だけな」
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