雫に溺れて甘く香る
そして、連れてこられたのは比較的表通りにあるチェーン店の居酒屋さん。

ご近所さんが多いのか、ご年配から若い人まで、色んな年代の人がたくさんいる。

「ここは賑やかね」

「ま。割と安いしな」

ビールとサワーと、簡単なおつまみを注文して……続木さんは胸ポケットを叩いた。

……それは癖かな。


「煙草、買ってくれば?」

ポツリと呟くと、彼は自分が何をしていたか気がついて、ふいっと視線を逸らす。

「俺は禁煙中」

「あー……はいはい」

「あんたは気にならないのか?」

「何が? 煙草の煙?」

意味もなく出されたおしぼりで手を拭いて、それを馬鹿丁寧に畳みながら首を傾げた。

「私は前にも言ったじゃない。気にならないって」

「じゃ、あんたが吸えば?」

「うまく吸えないし。むせるだけで終わるから。煙草は試したことないの」

それきり口を閉じて、何となく足を組むと店内を見回す。

賑やかで騒がしい雰囲気は久しぶりだな。

昔は同期会だとか、話の合う人間同士集まって騒いだものだけど、1年経つと課が移動したり、結婚したり、忙しくなったりで自然と疎遠になっていった。

合コンにセッティングされる店も、自然と物静かになっていったし、そもそも現在進行形でよく通うカフェバーは、どちらかと言ったら静かな部類だ。
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