雫に溺れて甘く香る
どうでも良いことを考えていたら、目の前の続木さんが、頬杖をつきながら、不思議そうに私を見ていた。

「……何?」

「いや。あんたは案外無口なんだな」

貴方程じゃないと思いたいなぁ。

なんだろう。おしゃべりだとでも思っていたわけ?

「いいじゃん。今は職場でも無いんだし、営業トークは必要ないでしょ?」

「俺に営業されても困るけど」

でしょうね。うちの会社は食品の取り扱いもあるけど、私は担当でもないから営業しようがない。

それに、もし仮に食品の話をするなら中野さんを選ぶし。

しかも、せっかくあるプライベートの居場所を、わざわざ職場にしたくないしなぁ。

「珍しいね。会話を求めてるわけ?」

「……女はおしゃべりだろう?」

「それはどうかなー? 以外と話をしない時にはしないもんだよ。ずーっとおしゃべりしている人もいるけど、それって男も女も関係ないでしょ」

続木さんは腕を組み、考えるように眉間にシワを寄せる。

「中野だな」

中野さんは確実に“おしゃべり”な人だよね。

「そういうことだねー」

そうしているうちにビールとサワーが届いて、グラスを持ち上げた。

「お仕事お疲れ様」

声をかけると、続木さんの眉が微かに上がる。

「お疲れさん」

ジョッキとグラスが合わさって、カチンと音が鳴った。
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