雫に溺れて甘く香る
「工藤さん、ビール苦手なんですね」

何事もなかったかのような篠原さんの言葉に頷いて、他の人にはにこやかに接客している続木さんを指差した。

「アレ。どうかしたの?」

「ああ。気にしないでいいですよ。一人で勝手に禁断症状出てただけですから」

ああ、煙草? そんなにヘビースモーカーだったのかな。

人に八つ当たりするくらいなら、煙草の煙を嫌がられようが吸えって話だ。


彼女の為に……とかなら、普通にイラッとするんですけど!


出来上がって置かれたカクテルグラスを持つと、ぐいっと煽るようにして飲み干した。

どことなく呆れた視線の篠原さんと目が合う。

「……工藤さん。今日は何か食べてきましたか?」

「食べましたよ、一応。取引先のおっさんにベタベタされながら!」

最初のうちはね!


ああ、もう。イライラしてるところに加えて、どーして続木さんに八つ当たりされなきゃならないのよ。

客にイライラぶつけるってどうなの?

接客業としてあり得なくない?

「おかわりです」

タン!とグラスをカウンターに置くと、眉を上げた篠原さんを涼しい顔で見返した。

「篠原さんの普通通りに作ってください」

「また酔いますよ?」

どうせ一回すでに醜態さらしているんだ、怖いものなんてないもんね。

じろりと睨むと、彼は肩を竦めながらカクテルの用意を始める。


そして……私はきっかり酔っぱらった。
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