雫に溺れて甘く香る
薄暗くなった店内。シーンとした静けさの中で目が覚める。

……怖いものなんてない、なんて思ったけど、また私はやらかしたらしい。


これはこれで女としては問題だ。


やっぱり私は飲まない方がいいかなぁ。でも、たまには飲みたい気分になるんだよね。

イライラしちゃうと余計にさ。

考えていたら、カウンターの中からカタンと音がして、ゆるゆると顔を上げると、続木さんが呆れた顔で、しかも腕組みして立っていた。

うーん。

「……何て言うか、申し訳ないです」

「いや? あんたはそんなに絡み酒じゃないから」

そんな呆れた顔で言われてもねぇえ?

「そんなに……って事は、もしかして私は絡んだ?」

ビーフシチューを食べて、カクテルを2杯くらい飲んだ記憶はあるんだけど。

「セクハラ親父の事を熱く語っていたくらいだ。まぁ、愚痴ぐらいは誰にでもあんだろ?」

「だろうけど……」

言いながら、腕時計を見てギョッとした。時計の短針は3時を差している。

「こんな時間までごめん! お会計します!」

「もうレジ閉めた。ツケだ、ツケ」

「そんなわけにいかないから!」

立ち上がろうとした瞬間、くらっとめまいがした。


めまいなんて初めてだ。


とりあえず座り直して、カウンターに両手をついてクラクラが過ぎ去るのを待つ。

やっぱり飲みすぎはよくないね。

溜め息をつくと、続木さんが私の頭をポンポンと叩いた。

「気持ち悪いとか、頭痛いとかあるか?」

「ううん。めまいがしただけ」

「少し休んでけ。シノが遊んだらしいから」

「篠原さん? 遊んだ?」

「三杯目は、濃く作り過ぎたんだと」


篠原さん……お客で遊ぶなし。
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