雫に溺れて甘く香る
それからお互いに無言で店を後にすると、向かった先はブティックホテルだった。

ここからなら私の家も近いのに。そうは思っても口には出さない。

クリーム色の壁紙に、部屋の中央に置かれた大きなベッド。普通のホテルの一室のような狭い空間。

唇を合わせると、ちょっと爽やかで甘い。


煙草の変わりのガムの味。


それがわかって、少しだけ胸の片隅がチリチリ痛む。

だけど、それには無視して彼を見上げた。

どこか探るような、だけど真剣な視線に微笑みを浮かべながら彼のシャツに手をかける。

それ事態が愛撫であるかのように、ゆっくりと服を脱がせあって、倒れるようにベッドに横たわった。

続木さんの指先が滑るように肌を辿っていき、時々思い付いたように耳元で低く囁くから、それがちょっとくすぐったい。

焦らすような触れ合いに困っていると、小さく笑われたような気がした。


「続木さ……っ」

「慰めてくれるんだろ?」

「でも……」

「……俺の好きに抱かせろ」

言葉のわりに優しい指先が、するりと足を撫でていき私の中心に触れる。

「あ……っ」

少しづつ官能を高めていくような触れ方は初めてで、戸惑いと同時に息苦しさも運んできた。


「……やっ!」

「嫌か?」

覗き込まれた視線は、どこか冷静に見下ろしていて、息を乱しながらも首を振る。

嫌だと言ったらやめてくれるんだろう。

そうと気がついて彼を抱きしめた。


……こんな時に、そんな優しさは反則だ。


好きに抱きたいと言うなら、めちゃくちゃにしてもいいから。


ズルい私を壊してほしい。
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