雫に溺れて甘く香る
そして、逢瀬と呼ぶには少し排他的な時間を過ごした後。

シャワーを浴びて、バスローブ姿のまま髪を乾かしていたら、ベッドに座っていた彼と鏡越しに目が合った。


「帰るのか?」

「うん。眠たいし」

「明日休みだろ? 泊まればいいじゃないか」


……あんたのスマホのバイブが気になるんだよ。とは言いたくない。


お店を閉める頃合いになると、続木さんは必ずスマホを見る。

私と会う時にはバイブにしてあるけれど、抱き合っていても、その音に気を散らされる事がある。

さっきだって、実は続木さんの腕の中でうとうとしかけていたけど、その音に邪魔された。


……彼女からしてみれば、本当は私の方が邪魔をしているんだけど。

でもそのバイブの音が、彼に深入りするなと、彼は私のモノではないと、警鐘をならしているようにも感じてしまう。

「眠るときはぐっすり眠りたいし」

「寝かせてやってもいいけど」


寝かせてやってもいいけど?


言っている意味がよくわからないけど……と、振り返りかけて、ドライヤーを取り上げられた。

「ちょ……」

驚く私を抱き抱え、ぼふっとベッドに放り投げられる。


続木さんって、細いくせに力持ち!


いや。感心してる場合じゃない。

体勢を整える隙もなく、上からのし掛かってくる彼を、目を丸くして見上げた。
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