雫に溺れて甘く香る
まぁ、確かに営業職だから、たまに接待とかで飲みに行く機会もあるんだけど……。

そういう時にはだいたい男性社員が一緒だし、一人でセクハラに堪え忍ばなくてもいいからラッキー。

うちの会社はそういう事には目が届いているしなぁ。

そんなことを思いながらパスタを食べ終えて、篠原さんにダイキリがを出してもらった。

「篠原さんって、人によってカクテルの作り方変えてるの?」

いつも飲みやすい感じのカクテルに、ふふっと小さく笑ってみる。

「さすがに全員は無理ですよ。カウンターに座る常連さんなら変えますが」

「そうなの?」

「あなたは、普通に作るとすぐに酔いましたから」

それは悪かったね。

思わず半笑いしたら、篠原さんの視線が入口に向かい……ちょっとだけ丸くなる。

お客様かな? そう思っていたら、空いていた隣の席にドカッと続木さんが座って瞬きした。


いつも以上に無表情……。

と、言うか、不機嫌オーラに思わず身体が引く。

「シノ。生ビール」

「いらっしゃい。お前、今日は出掛ける予定じゃなかったか?」

「話になんねーよ。女のわがままにはつきあってらんねぇ……」

ポケットからタバコの箱を取り出しながら続木さんはぼやくように呟いて……私と目が合った。


「ああ……来てたんだ」

「来てちゃ悪い?」

「……毎度ありがとうございます?」

言いながら煙草をくわえると、火を点ける。

溜め息のように吐いた煙の中に、チョコレートのような甘い香りが混じりあって流れてきた。
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