雫に溺れて甘く香る
「寝ぼけたあんたは、ずいぶんと可愛い反応をするんだな」

可愛い?

ピタリとブラウスのボタンを留めていた手が止まる。

なんだか聞き慣れない単語が聞こえたような気がするな。

眉を上げて続木さんを見たら、何故かムッとされた。

「なんだ?」

「え……ううん?」

答えてから着替えを再開する。

寝ぼけた私が……って、そんなの言われた事はないけど。

着替え終わると、少し冷めてしまったコーヒーを飲み干し、簡単に化粧を直す。

直していたら、また鏡越しに目が合った。


「何?」

「女は化粧で化けるよな。素っぴんだとガキくさい顔になるんだ」

「ケバいって言いたいわけ?」

ぷくっと膨れたら、鏡の中の続木さんが、思わずと言ったように吹き出して立ち上がった。

思わずその笑顔にビックリして振り返ると、彼はいつも通りの無表情に戻る。


……今のはいったい何?


「朝飯食いにいくか?」

「朝ごはん?」

今日は聞き慣れない単語ばかりが並ぶし……どうしたの?

「って言っても、この辺りじゃ、喫茶店のモーニングくらいだろうけど」

「あ……うん……」

……とっても些細な事だけど、続木さんと予定をたてるなんて初めてだ。

「美味しい?」

「二回くらいしか行ったことない。うちは朝まで営業しないから」

そうだよね。そんなことを言いながら、二人で並んでホテルを後にした。
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