雫に溺れて甘く香る
ぶらぶらと歩いて連れてこられたのは、彼のお店の近くにある喫茶店。

いつも夜になると、シャッターが閉まっているお店だった。

食べやすく三角に切られたバタートーストにサラダ、そしてオムレツ、ヨーグルトとバナナ。

プラス、モーニングコーヒー付き。

ワンプレートモーニングにしては、豪華だと思う。

「オムレツふわふわ~」

思っていた以上に美味しくて、ニコニコしながら頬張っていたら、目の前の続木さんがコーヒー片手に苦笑した。

「楽しそうだな」

「食べ物が美味しいのは、いいことだよ」

「まぁな……」

いきなり彼が、親指で私の唇に触れてきたから、内心であわてふためく。

「な、なに?」

あ。やばい、声も慌てた。

「ケチャップついてた」

何事もなかったかのように、そのままその指を口に含むから、カッと身体中が熱くなる。

キスなんていつものことなのに、間接的なソレが、やたらとエロく感じてしまうのは何故なんだろう?


「な、何やってんの」

呟くと、彼はキョトンと私を見て、それから指を見て、そして外を見ながら頬杖をつく。

「……本当だな」

それきり黙りこんで、黙々と目の前の朝食を食べ続けた。


……本当。何を考えているんだろ。

眉をひそめて眺めれば、しかめ面を返されて吹き出す。

「拗ねた子供みたいな反応しないでよ」

「悪かったな」

その言葉にパチパチと瞬きした。

今、拗ねたの?

何となく、甘えられたような気がして面映ゆい。

お互いに視線を逸らしたまま無言で食べ終えて、そのご飯を彼に奢ってもらってから喫茶店を出た。
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