雫に溺れて甘く香る
「ありがとう。ごちそうさま」

「いや、別に……」

ゆっくりと朝の清々しい空気が、暖かくなっていく。


思えば、出会ってからそんなに経ってもいないんだな……。


春先……まだ、コートが必要になるくらいの時季に出会って、そして、よくお店に顔を出すようになって。

こんな関係になってからも、まだ一ヶ月も経っていない。


無言のままで、歩く方向は私の家に向かうルート。

いつも長い赤信号の交差点に立ち止まり、それが青になると……続木さんが私を見下ろして髪を指先に絡める。


「またな?」


「……じゃあね」


歩き出すと、彼の指先から絡めとられた髪がスルスルとほどける。


『じゃあね』って言葉は、『またね』にも繋がる言葉。

それに何となく苦笑しながら歩き続けた。










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