雫に溺れて甘く香る
彼の目が一瞬だけ点に見え、それからまじまじと私を見つめた。

ゆっくりと……気をそらすように視線をそよそよと泳がせて、手にしたビールを一口飲んで、最後に俯いて、困ったように咳払いをする。


「バレましたか?」


うん。今、どうやって話をそらそうかなぁ的に悩んでいたのもバレました。

「まぁ……なんとなく?」


好きな子をいじめちゃう男子は最近じゃ滅多にいないけど、絶滅した訳じゃない。

原さんは『やっとセッティング出来た』と言っていたから、それなりに彼女も苦労したんだろう。


……見た目は爽やかだけど、どうもこの人は一筋縄じゃいかなさそう。

まぁ、営業職は表面を取り繕うなんてお手のものだもんね。


「いくらなんでも、飲み会に来てる女にワザワザ言うことじゃないですよ」

苦笑しながら言うと、彼はひょうきんに眉を上げてまたビールを飲んだ。

「失礼を承知で言うと、工藤さんが出会い目的じゃ無さそうだからかな。挨拶も他の子と違ってビジネスライクで媚びがないし」

あれ。そうだったかな?

でもまぁ、この場限りだからって名前すら覚えるつもりもなくて、彼は営業マンてあだ名までつけてるけど。


「……そんなことないですよ。私も一応、出会いは求めてます」

「そう?」

一応……一応ではあるけどね。考えてなくはないよ。

それが“今じゃない”って思っているだけで。

「それよりいいんですか? 意中の人を放っておいて」

「うーん。なかなか難しいんですよ。俺って近所の兄ちゃん扱いだし」

「あー……そんな感じですか」

「気づくのが遅かったんですよね。なんせ、アイツがいきなり、俺のダチを気になるとか言い始めて……」

それから二人で原さんの話をしながら盛り上がる。


合コンの正しい姿じゃないと思うけど、そこはそれでいいんじゃないかな……って思えた。

その後は、私にしては珍しく二次会のカラオケまで付き合って、お開きになる。
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