雫に溺れて甘く香る
「俺、工藤さん送っていくから」

爽やか系好青年は、あくまで爽やかにそう言うと、驚いたり、冷やかしたりしているメンバーに手を振り歩きだしたから、私も何も言わずについていく。

しばらく無言で歩いてから、皆が見えなくなったところで立ち止まった。

ちらっと原さんの方向を振り返り、柳原さんは小さくぼやく。

「うまく行くかなぁ……」

「行くかどうかはこれからでしょう。でも、きっかけがないとわからないんでしょう?」

「まぁ、そうなんだけど」

盛大に息を吐き尽くした彼は、疲れたように歩きだすから、またそれについて行く。

「でも、逆に大工の彼に持ってかれちゃうかもしれませんよ?」

「あ。それは大丈夫。千夏はアイツの好みから大きく外れてるから。アイツの好みって、どっちかと言うと工藤さんタイプかな? 冷静沈着な姉御肌がドンピシャ」

「あ。ごめん。私はタイプじゃないかなぁ?」

「世の中うまくいかないもんだな」

そうそう都合よくいかないのも人生だよ?

クスクス笑っていたら、柳原さんは不思議そうに私を見下ろした。

「でも、工藤さんはどうして初対面の俺に協力的になったの?」

「え。面白そうだし」

「一応、お互いフリーそうだし、俺に協力するより、自分頑張った方がよかったんじゃないか?」

「しばらくはいいかな。それに、柳原さんみたいに、誰か他の人を思っているような人に振り返ってもらうのって大変だもん」

苦笑混じりに呟くと、柳原さんは何かを察したように頷く。


「人生ままならないな」

「柳原さん、いくつですか」

「俺? 28だけど」

「言ってるコトがジジイですからね」

そう言って笑いあった。
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