雫に溺れて甘く香る
それからは、何故か原さんに柳原さんの事を“聞かれるように”なり。
ニヤニヤしながら、サラリサラリと流していた。

しばらくすると、原さんに『工藤さん。カズ君と付き合い始めたって、嘘ついたね!』と、噛みつかれ。

『誰よそれ』と聞き返せば、『柳原和尚!』と、怒られた。

フルネームなんて知らないから……と呆れたら、苦笑を返される。


柳原さんは、どうやらうまくやったらしい。


そんな事をぼんやりと考えていると、今度は原さんからお勧め男子とやらを紹介されそうになって、慌てて手を振った。


……けど、紹介されて今に至る。


大衆的な居酒屋のテーブル席。

ネクタイのない、クールビズなおじさんたちがビール片手に楽しむような席で縮こまっていたら、柳原さんに乾いた笑いを漏らされた。

「あー……ごめんね、工藤さん」

「何でカズ君が謝るの」

「工藤さんは断ったんだろ?」

「でも、来てくれてるじゃん」

そりゃ~あなた。社員入口で待ち伏せされて、真剣な表情で、有無を言わさず連れてこられりゃ、来るしかないじゃん。

苦笑しきりの柳原さんと、怒ったような原さんには笑うしかない。

目の前には、以前の飲み会には居なかった、パーカーにジーパンと、やたらにラフな格好の男の人がいた。

「初めまして」

しょうがないから愛想笑いを浮かべると、彼も苦笑して小さく頭を下げる。

「どうも」

その声に目を丸くして彼を見つめた。

低くて淡々とした平坦な声音。だけどよく響くその声は、とても聞き覚えのある声と似ていた。
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