雫に溺れて甘く香る
そうしていながら、頭の片隅で考えていることがある。

先月末から彼の店から遠ざかっているうちに、久しぶりに通ってみたら、ガランとして何もないガラスドアが見えた。

黄色と白との下地に、テナント募集の青い文字と不動産会社の連絡先……。

それが記載されているポスターが貼られていて、眺めながら、ああ、移転前の休業に入ったんだなって思った。


彼には連絡先なんて教えていないし、聞いてもいない。


お店に行かなくなれば、連絡手段が無くなってしまうような薄っぺらい関係だった。

そうしようって決めたんだし、決めたことを覆すにはそれなりのきっかけと勇気が必要。

そんな意味の無いことばかり。


黙って考えていたら、柳原さんの友達と目が合う。

「見た目がいい女って、ババアになったら飽きられるんだぞー?」

……あんたはその口が災いしていると思う。


「ピチピチの女の子を探せば良いじゃないですか」

「探すって言われてもなぁ。俺の職場は女子少ないし」

「お仕事は何をされているんですか?」

女子が少ない職種なんて、けっこう限られると思うんだけど。

「焼き鳥屋」

「なんだ。それなら全くいない訳じゃないじゃないですか」

「なんつーか……男勝りな女子が多いんだよ」

「男勝りな女子がタイプじゃないなら、私も範疇外で安心しました」

ホッとして彼を見ると、何故か鼻で笑われた。
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