雫に溺れて甘く香る
抱きしめたいじゃなく?
*****



世の中はあっという間に冬が過ぎて春で、桜が満開になったと思ったら暑くなる。

うまく企画チームの営業のメンバーに選ばれて、先輩について行きながら忙しく……と言うよりも、七転八倒させられた訳なんだけど。

いつの間にか、街路樹の茶色に混じって新緑が見えだす頃。

来月は梅雨の季節になるんだよね、なんてぼんやり考えていた金曜日。

唐突に見知らぬアドレスから、会社のアドレス宛にメールが届いた。


ペットボトルのお茶を飲みながら、開けるか開けまいか迷って、眉間にシワを寄せる。

下手に開けて、ウィルス感染とか泣けてくるしなぁ。

どうしようか迷っていたら、先輩が私のパソコンを背後から覗き込み、それから私の表情を眺めた。

「どうかしたのか? 難しい面して」

「はい。覚えのないアドレスからメールが届いていて……」

「変なもん開くじゃないよ?」

「顧客からってことはないと思うんですけど……」

うーん。もし顧客からなら問題になるんだけど……。

「開けるなら、工藤さん個人の端末に移してから開け。社内の端末はNG」

「村田さん、ひどい……」

「優しくしてやる義理はないだろう」

ああ、そうですか。

苦笑をしながらメールを個人用のスマホに転送して開いた。


開いた瞬間に見えたのは、見知った店名だった。

続木さんたちの店が、去年の10月末にオープンしたのは知っている。

うちにダイレクトメールが来ていたしね。
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