雫に溺れて甘く香る
会いに行くという選択肢が無い訳じゃない。

でも、やめておいた方がいいのはわかりきっている。

だけど、ハッキリしないと続木さんが待っている……のなら、どうにかしないといけないような気もする。


あくまで、いけないような気もするってだけなんだけど。


「相談のってあげようか?」

見上げると優しそうに見えて、実は鬼のような先輩がいて頬を膨らませる。


相談は難しいなぁ。

彼女持ちの男に抱かれてました。その男からメールが着ました。会いに行くべきか、否か。

まさか、そんなことは言えない。

それに私なら、間違いなく行くなって言うよね。


でも、このままでいるのも……どうしようか。

グルグル考えていたら、村田さんは軽く眉を上げてから苦笑した。


「悩むくらいなら、フルかフラれるか、喧嘩するか、いちゃつくか、当たって砕けてこいよ」

「軽く言いますね~」

「当たって砕けられるのも、若いうちだけだろ? 30過ぎると後先考え始めるから、手を出したくても出しにくくなるんだぞ~?」

そう言いながら、襲いかかるような仕草をするから目を丸くする。

「え。あの……私?」

まさかね? そう思っておずおず呟くと、村田さんは溜め息をついて手を下ろした。

「さすがの僕も、襲うなら時と場所を考えるよ。誰がこんな人前で襲いかかるんだ」

まだ、まわりに残っている同僚たちの苦笑の中、真面目に返されて半笑いを浮かべた。

「そっすよね。そんな感じっすよねー」

「工藤さん。何をいきなり体育会系になってんのさ」

呆れた顔をされて、考える。
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