雫に溺れて甘く香る
そして考えがまとまらないまま、ビルの下に立っている。

駅からまっすぐ延びるメイン通り、他にも飲食店が並んでいる賑やかな雑居ビルの二階が、彼らの新しい店だって知っていた。

確かに、前の店と比べると、うちからは少しだけ遠い。

でも、賑やかな場所になるから、立地条件としては好条件になったと言うことだよね?


それで……何も考えずにフラフラここまできてなんだけど、どうしようか?


腕時計を見ると22時。

彼らの店なら、少しは混雑している時間かなぁ。

金曜日だし、もっと遅い時間かもしれない。

できれば、あまり暇な時間にはお会いしたくないと言うか……。

って、会うこと前提に考えるからダメなんだよね。

このままクルッと回れ右して、うちに帰る選択肢があるわけよ。

それなら回れ右して、その場の勢いじゃなくて、もっとちゃんと考えてからにしてもさ。

やっぱりやめよう。

さすがにずっと会わなければ、続木さんだっていつまでも待たないでしょ。

うん。いい考えだと思う……。


「それで、いつになったら中に入るんだ」

ガシッと頭を掴まれて、ピキンと固まった。


……あれー? どうしよう。何だか聞き覚えがありまくりの声だわ。

恐る恐る視線を背後に向けると、お洒落な革靴と、スリムタイプの黒いズボンが見えた。

それからのろのろと視線を上げると、紙袋を持った不機嫌そうな視線と目が合う。
< 71 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop