雫に溺れて甘く香る
どーして、こういう時に限って、一番真っ先に会いたくない人と会うんだろうか?

続木さんのムッとした表情に、小さく溜め息を返した。


「手をどけて」

ブツブツ呟いたら、彼は手をよけて、パパッと髪を直してくれる。

それから紙袋を持ち直すと、今度は私の手を掴んできた。


「え。ちょ……?」

「うちの店に来るんだろ? 案内してやる」

彼に引っ張られるままビルの中に入って、エレベーター前で立ち止まる。

「ボタン押して」

「あ。うん」

思わず言われた通りに、エレベーターを呼ぶボタンを押したけど……。


何かがおかしい。

片手に買い物してきたのか、紙袋持参の続木さん。そしてバックを肩にかけた私。

何故か手を繋いで、エレベーターが降下してくるのを待っている。


絶対におかしいでしょう?


「ちょっと、手を離して?」

「嫌だ」

「嫌だって……子供じゃないんだから、一人でも行けるって」

「……知ってる」

到着したエレベーターに勢いよく連れ込まれ、反動で続木さんの胸に飛び込んだ。

すると何を思ったのか、いきなり腰を引き寄せられる。

久しぶりの続木さんの匂い。微かに甘い香りに包まれて、心臓が跳び跳ねた。

「あ、あの……」

「二階」

「は、はい」

言われたままパネルボタンに振れて、続木さんの顔を見上げる。


どうした? 続木さん。
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