雫に溺れて甘く香る
溺れる
*****



目が覚めると続木さんの腕の中だった。

……今、何時なんだろう。

チラッと彼を見つめると、とてもよく眠っているみたい。

そっと腕の中から抜け出して、ベッドを降りようとして……。

何も身に付けていないことに気がついた。

床に落ちていたブラウスを拾って、それを慌てて身につけて、それからようやく床に散らばった衣服をかき集め始める。


そりゃ、何も着ていないよね。当たり前なんだけどさ。

かき集めた洋服を持ちながら、ベッドに座り込むと溜め息をついた。


……耳元で囁かれる低い声が好きだ。

焦らす様に辿る、長い指が好き。

冷たいけど、冷静な視線も実は好きで……。

今更なんだけど、どうしてこんな時にわかっちゃうんだろう。

私って、続木さんの事が好きなんだ……って、実感しちゃったよ。


考えないようにしていたのに、せっかく考えないで流してしまおうと思っていたのに。

自覚してしまったら、こんな関係は続けられない。

絶対にダメだ。ダメだと……。


「帰るのか?」


その声に驚いて振り返った。

寝ていると思ったのに、起きていたらしい。

少しだけ気だるげに起き上がった彼を見つけて、表情を冷静なものに切り換えた。


「うん。帰る」


再度背を向けて、下着を身につけると、テキパキと着替えを済ませる。

背後では微かな電子音。

それから漂う、チョコレートに似た甘い香り。

その香りに瞬きして、また彼を振り返った。
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