雫に溺れて甘く香る
正直言って、あんなに不機嫌そうな男のどこが好きなのか解らない。

解らないけれど、好き。

理屈なんかじゃないくて、きっと目を合わせた瞬間から。そして肌を重ねた時から。


キスをした後に、ゆっくりと合わさる視線が好き。

一つになった時に、乱れた髪をそっとかき上げて来る手も好き。

終わった後、耳元に唇を寄せてきて抱きしめられるのも……。


好きだなんて……そんな言葉を言うのは本当に怖かった。


言ってしまったら全てが終わってしまいそうで。


だって本当に“今更”じゃない。

彼女がいるのは解っていたのに、好きだなんて言葉は我が儘に過ぎる気がする。

それって無い物ねだりの駄々っ子と変わらない。

でも、最後にするから……と言っても、伝えられる言葉でもなかったけれど。


だって、その言葉はあまりに重い。


私から始めた関係なのに……。


考えていたら、急に視界が塞がれて、頭にずしっと重みが加わった。


「……っ!?」


「なんで振り返らないんだよ」


聞こえてきた低い声に肩が揺れる。


「何やってるんだ」


目を隠すモノに手を触れて、そっと外すとゆっくりと振り返る。


……なんで、いるの?


続木さんは私と目が合った瞬間に舌打ちして、イキナリ頭を抱え込まれた。


「何を考えてるんだ」

「え……。ちょ……」

 頭を抱えられたまま来た道を戻られて……慌て出す。
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