雫に溺れて甘く香る
続木さんはいつも以上に不機嫌そうで、いつも以上に無表情だった。

それからそのまま不機嫌そうにタバコを取り出して……。


つまりは苛ついたって事かな。


彼女と喧嘩でもしたのか、何だかわからないけど、イライラしながらぼやいていたのは『女のわがまま』だよね。

ずるっと肩から下げたバックがずり落ちて、慌ててかけ直すと、閉店したショーウィンドウに自分の姿が映り込んだ。

営業職だから、あまり派手過ぎず、地味になり過ぎない、どちらかと言うと無難なベージュのスーツとパンプス。

営業先では“女では話にならない”と嫌がる人も、“女の話なら聞いてやらないこともない”とにやける人も両極端にいるから、あまり女を強調させず、それでいて女らしいエレガントを目指すセミロングの髪。

もともと顔は派手な方だから、化粧はあまり濃くならないように、それに合わせてシンプルに。

会う人に合わせて、ピンクやローズ色に染まる唇が、今はにやけていた。


……何だか嫌みくさい笑顔だね。


溜め息をついて歩きだす。

そっか、そうなのか。続木さんが相手の“女の事”をぼやいていて嬉しいのか、私は。

嫌だなぁそんなの。相手が相手をぶつくさ言っているのを見て、喜んじゃっている女なんて、一体どうなんだって話なんだけど。

変なときに変なことを気づいてしまったわけだなぁ。
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