雫に溺れて甘く香る
「ちょっと待って! 少しは理性的に話をしようよ!」

手を引きはがすと、続木さんは眉を上げながら身体を引いてくれた。

「話す気になったか?」

「や。話す気もなにも……」

「話す気がないなら続ける」

また腕が伸びて来たので、咄嗟にバスローブの襟を直して身体を丸めた。

「ちょっと待ってってば! 落ち着かせてよね!」

「俺はまだ落ち着いてる」

何を珍しく真剣な表情を見せてるんだ、あんたは!

「続木さんが落ち着いていても、これじゃ私が落ち着かないでしょ! それにまだって何、まだって!」

「これ以上進むと興奮するだろうが」

「そんな恥ずかしい事、涼しい顔で言わないで!!」

「どんな顔すれって言うんだよ」

呆れた顔をされても困るんだけど。

だからって、答え様もないんだけど。

こっちが恥ずかしいって言うか。


「続けていいのか?」

「ダメ……っ!!」

「……この状況で変な奴だな」

「変なのはあんたでしょうが! 今までこんな事したコトないのに、急に連れ戻すなんて!」

「連れ戻してない。違うホテルだ」

「そこ問題じゃないからっ! 全然問題じゃないからね!」

叫ぶと、続木さんはムッとした様に腕を組んだ。

「じゃあ、問題を変えてやる。今夜のお前、人が寝てるうちに帰ろうとしただろう」

……それは、その通りです。気がついていたんですね。

「それにいつものお前なら、サヨナラなんて言わなかっただろう」

……だって。
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