雫に溺れて甘く香る
いつからか……なんて知らないけれど、私は続木さんが気になっていたのかな。

そう……他のお客様には落ち着いた笑顔の癖に、こっちには無愛想だと気づいちゃうくらいには、たぶん私は彼を見てるって事だ。

まぁ、彼の無愛想もわからないではないのよ。初対面から私は喧嘩を売ったんだから。

店に行って、入ってきたのが私だと気がつくと、続木さんはいつもカウンターを無言で指差す。

『接客中でしょうが、なんなの、その適切ではない対応は!』と、口答えしたのも数知れずだよね。

ある意味で馴れ馴れしくて、横柄な私は、単なる“面倒くさいお客様”にしかならないだろうな。

私だって、そんな顧客にはちょっぴり無愛想にしちゃうし。

……いや。だからどうだって話なんだけど。

冷静に自己分析したからって、何の意味もないじゃない?

だいたいこっちは……恐らくもうすでに『面倒くさいお客様』カテゴリの女よ。

週に2・3回、夕飯を作るのが面倒で、お一人様でも平気でカフェバーでご飯食べれちゃうような人間よ。

ただそれだけの人間だし、プライベートで仲が良いってわけでもないし。

まぁ、今、気がつけて良かったじゃない。

たぶん、よかったんだよ。

彼に女がいるって気がついた段階で、少しだけショックを受ける程度。

すこーしだけ支離滅裂になるくらいの深み。
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