雫に溺れて甘く香る
「素……なの?」

「そうですよ。愛想笑いは職業柄。あそこまで器用に切り替えるのは、俺にはできない芸当だけど、工藤さんは最初から無愛想に対応されているでしょう? 見ていて楽しかったけど」

……確かに続木さんて、いつも私には笑顔を向けることはなかったけど。

え? どういうこと? 私って最初から邪険にされていたわけじゃなかったって事なの?

あの無表情が、彼本来の姿ってこと?


「……どうして、そんなことを今、私に伝えるんですか?」

「落ち着くところに落ち着いたみたいですから。聞いたでしょう。工藤さんがアイツの事を気にしてるの、言ってもいいかどうか」

それは、かなり昔に聞かれたけれど。

「何も言いませんでしたから、貴女にも教えませんでしたよ。それじゃ平等にならないから」

それも、かなり昔に言われた記憶が。


そう考えて、冷静な篠原さんをまじまじと見つめた。

「それって……」

「まぁ、でも……あの時はアイツには他に女がいましたからね。工藤さんがオーケーなら、俺は遠慮なくアイツを殴りますけど」

無表情に拳を握る篠原さんに驚いた。

「え。どうしてそうなるの?」

「女性を泣かせるのは男のすることじゃないですからね。友達なら、キッチリ教えてやらないと」

「い、いいいいですぅ!」

男の友情はわけがわからん!
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