雫に溺れて甘く香る
慌てて断ると、小さく笑われた。

「ここにいると色んなものが見えますからね。アイツも工藤さんの事を気に入ってるんだろうなってわかっていましたから、楽しかったです」

「そ、そそそうですか」

「それで、いつものでいいですか?」

「あ。はい」

答えたら、頭にずしりと重みが加わって、思わずカウンターに手をつく。

「お前はいつもパスタだな」

耳元で囁かれる声に顔を真っ赤にしていると、目の前の篠原さんに、笑いを堪えるようなそぶりをされた。

「続木。俺にまで牽制しなくてもいいぞ。俺は対象外だから」

彼はそう言うと奥に消えて行く。


もう、何だか恥ずかしいー。


「ちょっと、手をどけて。他にもお客様がいるでしょう?」

「いるにはいるが、今日はどうせカップルばかりだし見てないだろ」

頭の上の重みがなくなって、続木さんがカウンターに入ってきた。

「お前はシノと仲がいいよな」

「いいってわけじゃないよ。ただ、カウンターにいつもいるのは篠原さんだし……」

髪を直しながら彼を見ると、口元が微かに、本当に微妙にへの字になっている。

え。これはまさかとは思うけど……。


「何、嫉妬ですかー?」

からかうようにして言うと、じろっと睨まれた。


ワア……ソウナンデスカー?


目を見開いたまま固まっていると、ふいっと視線を外される。

ちょっとちょっと、キャラ違うんじゃないのー?
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