雫に溺れて甘く香る
目の前に届いたパスタに、いただきますと手を合わせて、パクパク食べていたら、一服を終えたらしい続木さんが出てきた。

チラッと私を見てからそのままフロアに向かって行く。

そう言えば、あまり店内を見ていないな。

石膏の質感そのままの白い壁と、深みのある色合いの板張りフロア。

音とヒールの感触からすると、実は本物の木材だよね。

全体的に、前の店舗より暖かみのある雰囲気。

カウンター席の椅子は5脚。

4人席が4席、2人席が4席。

その間に観葉植物がうまい具合に配置してあって、隣同士の仕切り替わりになっている。

その奥には六人くらい座れそうなボックス席が3席見えた。


「……三人でやっていける広さなの?」

「うーん。工藤さん、営業辞める気ありませんか?」

軽く呟く篠原さんを振り返る。

「……総合商社の営業職。けっこう私は給料高いよ?」

ニヤリと笑うと、篠原さんが少し引いた。

「……やっぱりソレ大事ですよね」

「まぁ、生活してますから。アルバイト募集中?」

「フロアにもう一人ですかね。俺もいるから回らないわけじゃないけど、イベント時期に余裕はほしいですね」

「ふんふん」

楽しく話をしていたら、カウンターの端にガタンと音がした。


「シノ。いい加減にしろ」

続木さんの低い声に、篠原さんが肩を竦める。

「落ち着けよな。俺は他にいるし」

さすがの私でも、呆れた顔の篠原さんに気がついた。


そっか、続木さんて案外、束縛系なのね。新たな発見に納得した。
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