雫に溺れて甘く香る
でも、少し考えてみて『そりゃそうだな』と納得した。

いきなり脈略もなく謝られたら私でも聞き返す。

しかもきっと何の事を謝られたのかグルグル考え始めるよね。

黙って眺めていたら、続木さんの眉間にシワが寄って、それから店内を見回して……。

篠原さんにポンと肩を叩かれていた。

「お前、今日はカウンター。俺がホールにまわる」

出来上がったカクテルをトレイに乗せて、篠原さんはカウンターをスタスタ出て行く。

それを無言で見送って、お互いに視線が絡まった。


「……悪い、何で謝られたかわからない」

「うん。何となくそれは理解した」

カウンターに肘を付きながら続木さんを眺めていたら、少しだけ困った顔をされる。

「……何だ」

「ううん。別に」

こんなところでまさか『焼きもち焼かせてごめんなさいの意味だった』的な、女帝のような台詞は吐けないし。

他にも言い方があるだろうけど、ここは彼の職場で、長話もダメだろう。

そして『続木さんて綺麗だなーって思ってました』とか言ったら、絶対に睨まれる。

それくらいは場を読むし、読めなきゃ営業なんてやってられない。

だから、とりあえず微笑みながらパスタを食べていたら、どうしたのか何故かムッとされて頭をぐちゃぐちゃとかき混ぜられた。

「ちょ……っ! なにするの!」

「ガキくさいことしてんのはわかってるんだよ」

はあ? あんたが? 私が?
< 96 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop