雫に溺れて甘く香る
睨み合っていたら、お客様を一組送り出した篠原さんが戻ってきて、私たちを眺めると苦笑する。

「痴話喧嘩は犬も食わないって言いますからね?」

「ち、痴話喧嘩じゃないですから!」

思わず叫んでしまってから、パクンと口を閉じた。

それから慌ててまわりをみる。テーブル席の人たちは我関せずで、いちゃいちゃしてた。

それにホッとしてから座り直し、何事もなかったように表情を取り繕う。

「ごちそうさま」

言いながら口許をハンカチで拭いてカクテルに手を出すと、その様子を彼は黙ってみている。


コクコク飲んでもじっと見ている。


ずっと黙って見ているから、最後は居心地が悪くなって、顔がどんどん赤くなっていった。


「何よ……」

「俺も言わないかもしれないが、お前も言わないな……」

「場所柄を考えなさいよ。私はプライベートだけど、あんたは職場でしょうが」

「そうだけど……」

ブツブツ言いながら、何かを考え始めた彼を見ながらカクテルを飲み干す。

「お会計、レジに行く感じ?」

「帰るのか?」

「当たり前でしょう。明日も私は仕事なの」

「そうか……会計はここでいいぞ」

支払いを済ませてから立ち上がると、続木さんがついてきてエレベーターのボタンを押してくれた。
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