雫に溺れて甘く香る
「送ってくれるの?」

「早いけど遅いし」

……時刻は20時を過ぎたところ。

カフェバーのあなたにしたら早いけど、間違いなく夜だからって事かな?

「仕事中でしょ? エレベーターまででいいよ」

じっと見つめられて手を振ったら、その手をパシッと掴まれた。

どうするのかな……と、思ってみていたら、何故か指と指を絡ませあって、恋人繋ぎみたいな事をする。


……あんたは乙女か。

いや、嫌ないんだけどさ。こういうことは大人になってからもするものなの?

「帰ったら連絡くれ」

エレベーターのボタンを押しながら、続木さんがカードを取り出す。

見てみると続木さんの名前の入った名刺で、無意識に両手で受け取ろうとして繋がったままの手を忘れていた。

「あ。ごめん、つい」

「いや。とにかく、プライベートの連絡先も教えて欲しい。前にもらった名刺は会社用だろ?」

「そうだけど……わかった。帰ったら連絡するね」

片手で名刺を受けとるのはどうかと思うけど、とにかく受け取って一読する。

「個人的なメアドも記載しちゃってるんだ?」

「試し刷りだからな。店用のはまた別にあるし。それは店のアドレスと連絡先になってる」

ふーんと呟いて、エレベーターが来たから乗り込もうとして……繋がれたままの片手に視線を落とした。

「えーと……?」

呟いたら頭に柔らかくて暖かい感触がして、手が離れると同時にその暖かさも離れていった。

……い、今のって。
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