海に溶けて、そうして
「どーも、こんにちは」
変に思われたかも、っていう心配はいらなかったみたいで、男の子は挨拶を返してくれた。
嬉しくて、えへへって笑う。
「……で?なんで池に飛び込んでんの、お前」
「えっと……きれいだった、から」
別に、間違ったことは言ってない。うん。
そう言うと男の子が急に手を伸ばしてきて、驚いて私は固まってしまった。
私が握っているのとは反対側の髪を、ぐいっと掴まれる。そのまま男の子の顔が近付いて、ドキドキして顔が熱くなって。
「……髪、膨らんでる。人間のフリすんならもっと上手くやれ、人魚」
…………え?
「いま、なんて……」
おそるおそる聞き返したけれど、男の子は無言で髪を絞ってから私と距離を置いた。
なんで彼が人魚の特性を知ってるんだろう。
みんなに言ってしまうのだろうか。みんな、私が人魚だって知ったら、どんな反応をするんだろうか。
怖くて、怖くて、泣きそうになって男の子を見る。
どうか言わないで、という思いを込めて。
──彼は舌打ちをして、みんなに聞こえるような大きな声で叫んだ。
「オレは生徒会長、秋月 懐(アキヅキ ナツ)。この学園で妙なことをする奴は全員オレが指導する、しっかり覚えとけ!ずぶ濡れ女!」
キャー、ナツ様-!なんて歓声が上がる。
──ああ、よかった……。
人魚だってことはバラさないでくれるみたいで、ほっと息を吐いた。怖そうに見えたけど、意外と優しい人なのかもしれない。
あきづき、なつ。
ナツ、ナツくん。
私は一目惚れした、綺麗で優しい人の名前を、噛みしめるように何度も頭の中で繰り返した。