海に溶けて、そうして

「どーも、こんにちは」

変に思われたかも、っていう心配はいらなかったみたいで、男の子は挨拶を返してくれた。
嬉しくて、えへへって笑う。


「……で?なんで池に飛び込んでんの、お前」

「えっと……きれいだった、から」


別に、間違ったことは言ってない。うん。
そう言うと男の子が急に手を伸ばしてきて、驚いて私は固まってしまった。

私が握っているのとは反対側の髪を、ぐいっと掴まれる。そのまま男の子の顔が近付いて、ドキドキして顔が熱くなって。

「……髪、膨らんでる。人間のフリすんならもっと上手くやれ、人魚」



…………え?



「いま、なんて……」


おそるおそる聞き返したけれど、男の子は無言で髪を絞ってから私と距離を置いた。

なんで彼が人魚の特性を知ってるんだろう。

みんなに言ってしまうのだろうか。みんな、私が人魚だって知ったら、どんな反応をするんだろうか。



怖くて、怖くて、泣きそうになって男の子を見る。

どうか言わないで、という思いを込めて。



──彼は舌打ちをして、みんなに聞こえるような大きな声で叫んだ。


「オレは生徒会長、秋月 懐(アキヅキ ナツ)。この学園で妙なことをする奴は全員オレが指導する、しっかり覚えとけ!ずぶ濡れ女!」


キャー、ナツ様-!なんて歓声が上がる。


──ああ、よかった……。

人魚だってことはバラさないでくれるみたいで、ほっと息を吐いた。怖そうに見えたけど、意外と優しい人なのかもしれない。


あきづき、なつ。

ナツ、ナツくん。


私は一目惚れした、綺麗で優しい人の名前を、噛みしめるように何度も頭の中で繰り返した。

< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop