あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
01婚約破棄
子供の頃読んだ童話はいつも、お姫様が愛するひとと結婚してめでたしめでたしだった。
現実もそうだったら、どんなにいいだろう?
私の人生も一番幸せなときに、終われたなら。
中田綾音(なかだあやね)はこうして愛するひとと結婚して、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
まぁ人は大人になるにつれて、現実は甘くないことを知るのだけれど。
「……勇輝(ゆうき)。今、なんて言ったの?」
フローリングに額を擦り付ける交際3年目の恋人であり、最近婚約者となった勇輝に私は声をかける。
磨き上げられたフローリングは、今日私がここに引っ越してくると知って、気前のいい大家さんが掃除をしてくれたらしい。
ここは私たちの新居。
前に暮らしていたアパートの更新の都合で、私が一足先にここで暮らすことになっていた。
日曜日の今日、勇輝は引っ越しの荷解きに来てくれるはずだったのだが……。
「結婚はなかった話にしてほしい」
彼の言葉に、土下座体勢のまま開口一番に聞いた言葉が聞き間違いではなかったことを知る。
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