あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
……部屋は重い空気に包まれていた。
休日のため家にいた父も私の顔を見て喜んだあと、続けて後ろにいた主任を見て、険しい表情をした。
主任は母にしたのと同じ挨拶を父にもした。
母が二人分のお茶を私と主任の前に置いてくれたあと、主任はこう切り出したのだ。
『まず始めに、お二人に謝らなくてはなりません。綾音さんを……大事な娘さんを妊娠させてしまいました』
深く頭を下げ、謝罪の言葉を告げる主任に、両親は唖然とする。
……そして、重い空気が部屋を包んだ。
「……綾音。あなた、顔色が悪いと思ったら……」
呟いたのは母だった。
「今何週目なの?」
「先週、病院に行ったとき……6週目って……」
「悪阻は?」
「私が酷い方なのかは、よく分かんないけど……何も食べれない」
「そう。お腹は冷やしちゃ駄目よ。このひざ掛けを使いなさい」
母が手渡してくれたのは、白の毛糸で編まれたひざ掛け。
母が趣味の編み物で作った作品だ。
私はそれをありがたく受け取って、膝にかけた。
「産みたいと思ってるのね?綾音」
母の声に私は深く頷いた。
今度は母に代わり、父が口を開いた。
「井上さん……でしたよね?井上さんは綾音の妊娠を聞いてどう思いましたか?」
主任は居住まいを整えて、話し始める。
無表情だけど、真剣なのだとわかる表情で。
「彼女の妊娠と産みたいという意志を聞いたとき、本当に嬉しかったです。出来ることなら、お腹の子と綾音さんを守り、幸せにしたいと思っています」