あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
主任は頭を上げて、両親に訴える。
「綾音さんは妊娠のことを自ら話そうとしなかった。私が迷惑になるかもしれないと思ったからだそうです。
婚約破棄が会社に知れ渡ったときでも、相手の人を決して悪者にはしなかった。
そんな優しい人だと分かっているから、私は綾音さんと結婚したいと思ったのです」
主任は一息にそう言って、頭を下げた。
「お願いします。娘さんを私にください」
心地よい澄んだ声。
仕事中、いつも頼りにしてしまうその声。
主任は誠実で、堂々としていて、やっぱりそういう姿が好きだと思った。
全身全霊で、主任への想いを実感した。
だから、私も息を吸い込み、頭を下げた。
「お父さん、お母さん。お願いします。
私……本当は勇輝と婚約破棄して寂しかったの。そんなときにずっとそばにいてくれたのが、彼で。
寂しいって、思いも忘れるくらいに、主任の……貴幸さんのことを"好きになった"」
心に閉じ込めたありったけの想いを込めて言った"好き"はとても力強くて。
頭を下げたままの主任が息を呑む気配を感じた。
「婚約破棄してそんなに経ってないのに、次の結婚なんて、軽はずみな行動だって、わかってる。
でも、私は彼と一緒に、この子の誕生を祝いたいの。もちろん、お父さんとお母さんとも一緒に」
頭を下げたままの右手でお腹を押さえる。
沈黙が家の中に下りてくる。
両親も言葉を探すかのように、押し黙っている。