あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。
09負けたくない
両親の家から私の家に帰ると、二人でソファに座って、これからのことを話し合うことにした。
まず始めに、家のこと。
家は主任の今住む家に私が引っ越すことにした。
部屋数は余っているという話だし、何より今私が住んでいる家は、元カレと暮らすために借りたものなのだ。
この家に二人で暮らすのは何かおかしい。
「そういえば、主任の家に行ったことないです」
私がふと思ったことを口にすると、主任は確かに、と頷いた。
「俺たち会うのはいつもここだったもんな」
そう。きっかけは、婚約破棄。
寂しさを理由に、主任を家に上げたときから、この関係は始まった。
セフレという名の愛のない関係。
でも主任はいつも激しさの裏には、ちゃんと優しくて。
そんなところが、たまらなく愛おしくなって。
ああ、でも、朝起きて、あなたがいなくて、代わりに小さなメモがあなたがいた事実を伝えてくれた。
そんな私たちが結婚する。
想いはまだ伝えられないままだけど。
愛おしいから。大切にしたいから。
「どうした?綾音。考え事をして」
主任の言葉にその顔を覗き込む。
私はその無表情の顔に誓う。
主任が私と結婚したことを後悔させない、と。
「いつ入籍しますか?」
誓いの言葉の代わりに、私は尋ねた。
私の質問が意外だったのか、主任は眉を上げて、私を見つめた。
「俺はいつでもいいけど、綾音が安定期に入ってからのほうがいいんじゃないか?」
「そうですよね」