あなたの「おやすみ」で眠りにつきたい。


「営業補佐の中田綾音。なんで婚約破棄されたと思う?」

給湯室の中から自分の名前が出てきて、扉の前で足を止めた。

そうだよね。給湯室って、女の子のたまり場だよね。
ここまで来てから、そのことに気づく。

中から時々珈琲か何かを啜る音がするから、仕事そっちのけで、女子会らしい。

「フラレたんじゃない?中田さん、結婚しても仕事続ける気だったでしょ?」

「それとも中田さんの浮気がバレたとか?」

「え!?中田さん浮気してるの?」

女子会とはえげつない。

「あれ?知らない?営業部の矢田部長とデキてるってもっぱらの噂だよぉ」

根も葉もない噂だ。
誰よ。そんなの流したの。

「夜遅くに一緒に帰ってるらしい。手繋いでたって!」

そりゃあ、残業帰りに駅まで一緒に帰ることはあります。
手なんて繋いだことない。

私を気にかけてくれる矢田部長。
でもあの人、愛妻家ですしね。

不倫なんて起こるはずない。

「中田さんって、大人しそうな顔して、結構えげつないことするんだねぇ」

えげつないのは、あんたたちでしょ。

「だから仕方ないんだって!婚約破棄とか」

「25歳で結婚できるって結婚指輪見せびらかせてたしねぇ。あれって私たちへの当てつけよね」

「そうそう。腹立つやつだったから、ホント、いい気味!」

給湯室の中から笑い声が響く。

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